寂しさの先にあるもの
寂しさの先にあるもの 店舗の立ち退きが決まり、「寂しい」という気持ちが心に残りました。 その時、ふと頭に浮かんだのが、茶の湯の精神である 「和敬清寂」 の「寂」という一文字です。 和して、敬い、清らかに生きる。そして最後には静かな寂しさが残る。 もちろん「寂」は本来、侘び寂びの「静けさ」を表す言葉ですが、人生を振り返ると、別れの後に訪れる静かな寂しさとも重なって見えてきます。 人生も最終章へ向かうにつれ、さまざまな別れがあります。 今回、20年以上続けてきた店舗を離れることになり、その寂しさを改めて感じています。 しかし、思い返せば私は昔から「移動する人生」を歩んできました。 店舗を始める前、私は大西洋単独横断レース Mini Transat を目指し、約二年間、ヨットで寝泊まりする生活を送っていました。 言ってみれば、海の上のホームレス生活です。 風まかせ、天気まかせ。 低気圧の位置を見ながら、フランス、スペイン、カナリア諸島、カリブ海、フロリダ、サンフランシスコ、ハワイ、そして銚子へ。 自然に合わせて移動することが、いつしか当たり前の暮らしになっていました。 レースのゴールは、カリブ海・グアドループ島のポワンタピートル。 仲間たちの多くは、そこで船をシッピングしてフランスへ帰ります。 「君はどうする?」 そう聞かれると、私はいつも笑って答えていました。 「次はフロリダ、サンフランシスコ、そして太平洋横断。」 レースが終わり、みんながバカンスを終えて帰国する中、私は一人、船を修理するためマリーナへ向かいました。 忘れられない朝があります。 ハリケーンが過ぎ去った静かな夜。 まだ午前3時ごろ、港を出るには風向きも風速もちょうど良かったので、夜明けを待たずに帆を上げました。 真っ暗な海を、風だけを頼りに進みます。 やがて東の空が少しずつ明るくなり、新しい一日が始まる。 夜の静けさと寂しさから、朝への期待へ。 あの時間が、私は今でも一番好きです。 エメラルドグリーンのカリブ海を帆走し、大きなマリーナへ入港すると、サービスボートが迎えに来てくれました。 桟橋に船をつけ、また次の航海へ向けた整備が始まります。 今回の店舗移転も、それと同じなのかもしれません。 20年以上営業した店を離れる寂しさはあります。 でも、それは終わりではなく、新しい航海の始ま...