ルート テュ ラム ULTIM トップ
トム・ラペルシュ(Tom Laperche)
2026年 Route du Rhum|ULTIMクラス
フランス外洋レース界で注目されている、29歳の若手スキッパーです。
興味深いのは、フランソワ・ガバール(François Gabart)の後継者であり、ブルターニュの育成システムから育った選手だということです。
しかも、単に速いセーラーではありません。機械工学を学んだエンジニアでもあります。
1. プロフィール
名前:Tom Laperche(トム・ラペルシュ)
生年月日:1997年6月24日
年齢:29歳
出生地:フランス・ルデアック
育った地域:ブルターニュ、ラ・トリニテ=シュル=メール周辺
学歴:コンピエーニュ工科大学、機械工学
所属:MerConcept
現在の艇:SVR-Lazartigue
主な師匠:フランソワ・ガバール
2. ヨット人生は5歳から
ラペルシュは5歳ごろ、父親や兄とセーリングを始めました。
13歳のときには、父親とMulti50で大西洋を横断しています。
父親フィリップは歯科医師で、2010年のルート・デュ・ラムにアマチュアとして参加した経験があります。
つまり、プロのヨットレーサーの家庭というより、外洋航海を愛する家庭で育ったのです。
本人は子供のころからルート・デュ・ラムに憧れ、オプティミストで参加したいと考えていたそうです。
そのとき、家族の知人だった名セーラー、ローラン・ブルニョンから、それはできないと教えられたという逸話もあります。
3. ブルターニュの育成システムから世界へ
ラペルシュの経歴で特に注目したいのは、Bretagne-CMBの育成プログラムです。
これは若手セーラーを選抜し、フィガロ級で経験を積ませ、世界レベルの外洋レーサーへ育てる仕組みです。
主な戦績は次のとおりです。
2020年:Solitaire du Figaro 3位
2021年:フランス外洋レース選手権優勝
2022年:Solitaire du Figaro 優勝
2023年:Transat Jacques Vabre ULTIM 2位
2024年:Arkéa Ultim Challenge 世界一周挑戦
2025年:Rolex Fastnet Race 優勝
2025年:Transat Café L'Or ULTIM優勝
2026年:24H ULTIM 優勝
フィガロのワンデザイン艇で単独航海の技術を磨き、巨大なフォイリング・トライマランへ進んだわけです。
4. フランソワ・ガバールとの出会い
フランソワ・ガバール(François Gabart)は、2012〜2013年Vendée Globeの優勝者です。
ラペルシュは2019年、ガバールが設立したMerConceptでエンジニアとして研修を受けました。
2021年にはガバールのコスキッパーとなり、Transat Jacques Vabreで2位。
その後、2024年からSVR-Lazartigueの舵を任されるようになります。
ガバールは彼を「セーリング界の小さな王子」と呼んでいます。
これは、師匠が若い選手に艇とチームの未来を託した、興味深い世代交代ですね。
5. 愛艇 SVR-Lazartigue
全長:32m
全幅:23m
マスト高:36m
重量:約17トン
進水:2021年
設計:VPLP
建造:CDK、Multiplast、MerConcept
この巨大なフォイリング・トライマランを一人で操ります。
風、波、セールトリム、フォイルの揚力、オートパイロットの設定など、あらゆる要素を調整しながら、30ノットを超える速度で航海する世界です。
2024年のArkéa Ultim Challengeでは単独世界一周に挑戦しましたが、浮遊物との衝突により南アフリカへ寄港し、リタイアしています。
6. 2026年ルート・デュ・ラム
2026年11月4日11時(フランス時間)の確認順位では、ラペルシュはULTIMクラスの1位を航行していました。
艇速:32ノット
ゴールまでの距離:1,792海里
2位との差:25.5海里
これは11月4日時点の記録であり、現在のリアルタイム順位ではありません。
7. 注目したいのは「育成と継承」
ラペルシュの経歴には、一つの流れがあります。
父親との航海から始まり、ブルターニュの育成制度、フィガロでの修業、ガバールとの出会い、そしてULTIMのスキッパーへ。
しかも本人は、パフォーマンスは常にチーム全体の仕事の結果であるという考えを示しています。
かつてガバールがミシェル・デジョワイヨーらの世代から学び、今度はガバールがラペルシュへ経験を伝える。
フランスの外洋レース界の強さは、艇の技術だけではなく、こうした人材育成と世代交代にもあるのではないでしょうか。
そして面白いのは、ラペルシュにとって2026年が初めてのルート・デュ・ラムだということです。
29歳の若者が、ガバールから受け継いだ艇で、世界最高峰の単独大西洋横断レースに挑んでいます。
フランスの外洋レース界には、若い才能を発掘し、育て、次の世代へと経験を伝えていく仕組みがあります。
一人の天才が突然現れるのではなく、長い時間をかけて人を育てる。
トム・ラペルシュの活躍は、そんなフランスの外洋レース文化を象徴しているように思います。
スポンサー企業は?
SVR-Lazartigue(SVRラザルティーグ)のスポンサー企業
SVR-Lazartigueは、フランスの企業スポンサーによるヨットチームです。
名前には2つの企業が入っています。
SVR:フランスのスキンケア・化粧品メーカー。
Lazartigue:フランスの高級ヘアケアブランド。
どちらも美容・化粧品関連の企業です。
MACIFが相互保険会社なのに対して、SVR-Lazartigueは美容関連企業の支援を受けているのが特徴です。
実際のオーナーは「KRESKグループ」
フランスの化粧品グループ、KRESK(クレスク)が2021年に艇を取得しました。
経営者はディディエ・タバリー(Didier Tabary)氏です。
興味深いのは、フランソワ・ガバールが以前MACIFの支援を受けていたことです。
MACIFとの契約終了後、KRESKが新しいパートナーとなりました。つまり、ガバールを通じてスポンサーが引き継がれた形です。
また、2026年10月のスポンサー担当者へのインタビューによると、企業側の目的は単なる商品宣伝ではありません。
企業の知名度向上、従業員の結束、技術革新、海洋環境保護などを重視しており、少なくとも2028年まで活動を継続する方針です。
日本に例えるなら、化粧品メーカーが巨大なレーシングヨットを所有し、プロチームを運営して、世界最高峰のレースに参戦しているようなものです。
フランスでは、保険会社のMACIFも、化粧品会社のKRESKも、外洋レースを企業文化やブランドづくりに活用しているわけですね。