フランスの茶の湯
少しコーヒーブレイクです。
フランスへ行くと、必ずカフェに入ります。
一休みできるし、トイレも借りられる。 それに、フランスのカフェという空間がいいんですよね。
自分の記憶では、同じコーヒーでも、カウンターで立って飲むのが一番安く、室内のテーブル、そして外のテラス席と値段が変わりました。
考えてみれば当然で、フランス風に言えば、マドモワゼルやムッシュが歩く距離が長くなるのですから、その分、値段が違ってもいいですよね。
自分の記憶に残っている、フランスのカフェの「所作」があります。
朝、常連客がやって来る。
カウンターの中の女性と「Bonjour」と挨拶をして、右の頬、左の頬と合わせるように**ビズ(la bise)**をする。
そしてコーヒーを注文する。
コーヒー豆を電動のグラインダー(moulin à café)で挽き、エスプレッソマシンのポルタフィルターという取っ手のついた器具に入れる。
そして一度、タンパーという道具でコーヒーの粉を押し固める。これをタンピングといいます。
ポルタフィルターをエスプレッソマシンに取り付け、圧力をかけた熱いお湯でコーヒーを抽出する。
そして、その後の所作が好きなんです。
どこのカフェにも、抽出し終わったコーヒーの粉を捨てるための箱、ノックボックスのようなものがあり、ポルタフィルターをコン、コン、と叩くようにして、コーヒーかすを落とす。
この一連の動作に無駄がない。
日本の茶の湯とはもちろん違いますが、毎日繰り返される決まった所作を眺めていると、これも一つの「フランスの茶の湯」ではないかと思えてきます。
そしてフランスの茶の湯の心は――
愛の国ですから、朝のビズと笑顔☺️ではないでしょうか。
夕方になると、今度はそのカフェがそのままバーになります。
生ビールを頼むときも、日本のように「生一丁!」ではありません。
Une pression, s'il vous plaît. 「ユヌ・プレッシオン、シル・ヴ・プレ」 生ビールをお願いします。
するとサイズを聞かれる。
そして、ここが自分には重要です。
カウンターには、生ビール用のグラスをすすぐ、噴水のようなグラスリンサーがある。
グラスを逆さにして押しつけると、水が勢いよく噴き出して、グラスの内側をサッと濡らしてくれる。
これをしてからビールを注ぐ。
グラスの内側を水で濡らしておくことで、余計な泡が立ちにくくなる。自分は、この飲み方が好きなんですよね。
日本では泡もビールのうちですが、フランスで飲んだ生ビールは、日本より泡が少なかった記憶があります。
そしてビールも、カウンターで飲むのと、外のテラス席で飲むのでは値段が違いました。
コーヒーを淹れる所作。 ビールを注ぐ所作。 常連客との朝の挨拶。 そして笑顔。
茶筅も茶碗もありませんが、毎日の暮らしの中に決まった所作があり、人と人との挨拶があり、一杯の飲み物を楽しむ時間がある。
そう考えると、フランスのカフェにも「茶の湯」があるような気がします。
最後にヴァンデ・グローブを観戦するためにフランスへ行ったのも、もうずいぶん前のことです。
ですから、席によって値段が違うという話などは、あくまで当時の自分の記憶として読んでください。
それでも、カフェのカウンターで聞いた「コン、コン」という音と、 朝の「Bonjour」、そして笑顔は、今でもよく覚えています。
フランスの茶の湯。
その一服は、エスプレッソなのかもしれません。